橋 本 幹 夫  選
　　　　　　朝顔の色に安堵の里帰り／木村宏一
　　　　　　立秋や空に預けし名残雲／瀬尾睦夫
　　　　　土ぼこり立てる雨音涼新た／田村公平
　　　一日の残暑はじまる日の出かな／筒井省司
　　　　残暑なほ日を照り返す能登瓦／池下よし子
　　　　　　棚経や僧の配りし勤行集／清水恵山
　　　　　　　片陰や左通行許し乞ふ／山口美琴
　　　　風抜けてこぼれて匂ふ稲の花／森戸しゆじ
　　　　蜩やゆつくり止まる蹴り轆轤／石崎そうびん
　　　　　鳩群れて平和の飛翔長崎忌／後藤允孝

 

瀬 尾 睦 夫  選
　　　　風抜けてこぼれて匂ふ稲の花／森戸しゆじ
　　　　　号笛に園児駆け出す運動会／駒田暉風
　　　　　　あの山が次の札所や鰯雲／石崎そうびん
　カンナ燃ゆたつた一人のためにだけ／橋本幹夫
　　　　絶やさじと若き語りべ原爆忌／池下よし子
　　　　　単線の眺めて飽きぬ窓の秋／清水恵山
　　　　コーヒーの香る狭庭に秋の雨／筒井省司
　　　　　　　秋鯖の縞丸々と朝の浜／田村公平
　　　　　　芋の露硯の海に静まりて／渡邉春生
　　　　青柿やいさかひ絶えぬ青二才／後藤允孝

 

池 下 よ し 子  選
　　　　風抜けてこぼれて匂ふ稲の花／森戸しゆじ
　　　　　山頂にケーナの音色風は秋／木村宏一
　　　　　　あの山が次の札所や鰯雲／石崎そうびん
　　　　　　暗闇に残る蛍を解き放つ／橋本幹夫
　　　　　単線の眺めて飽きぬ窓の秋／清水恵山
　　　虫の音に安らぎもらふ仕舞風呂／山口美琴
　　　一日の残暑はじまる日の出かな／筒井省司
　　　　葉鶏頭夕日を近く引き寄せて／渡邊春生
　　　　　鳩群れて平和の飛翔長崎忌／後藤允孝
　　　　伸ばす手の袂押へて浴衣の子／瀬尾睦夫

清 水 恵 山  選
　　　　夜長しまたも見返すテレビ欄／駒田暉風
　　　　　　伊吹嶺の雲から頭涼新た／石崎そうびん
　　ゆるやかに下るせせらぎ野路の秋／橋本幹夫
　　　　残暑なほ日を照り返す能登瓦／池下よしこ
　　虫の音にやすらぎもらふ仕舞風呂／山口美琴
　　　　名も知らぬ秋草を手に散歩道／筒井省司
　　　　　　雲走り一雨ごとに涼新た／田村公平
　　　　　　　　人の声蜩の声神木に／渡邊春生
　　　　　一滴の雨も恋しき残暑かな／後藤允孝
　　　　　新涼や水輪大きくけふの雨／瀬尾睦夫

 

森 戸 し ゆ じ  選
　　迎火やおかへりなさいを声にして／池下よし子
　　　　絶やさじと若き語りべ原爆忌／同
　　　　　　健康は老いの願ひや星祭／山口美琴
　　　虫の音に安らぎもらふ仕舞風呂／同
　　　　　山頂にケーナの音色風は秋／木村宏一
　　　　　　奥美濃に一揆の歴史踊唄／石崎そうびん
　カンナ燃ゆたつた一人のためにだけ／橋本幹夫
　　　　　単線の眺めて飽きぬ窓の秋／清水恵山
　　　　名も知らぬ秋草を手に散歩道／筒井省司
　　　　　葉鶏頭夕日を近く引寄せて／渡邉春生

 

山 口 美 琴  選
　　　　　天の川渡して見せる峡の宿／木村宏一
　　　　伏流水尽きることなし新豆腐／石崎そうびん
　　ゆるやかに下るせせらぎ野路の秋／橋本幹夫
　　迎火やおかへりなさいを声にして／池下よし子
　　　　流灯の離れつ寄りつ遠ざかる／清水恵三
　　　　曇日に咲けどひと日の白芙蓉／筒井省司
　　　　　　　秋鯖の縞丸々と朝の浜／田村公平
　　　　　葉鶏頭夕日を近く引寄せて／渡邉春生
　　　　　　　夕闇の川面彩る納涼船／後藤充孝
　　　手花火や消へて小さき闇となり／瀬尾睦夫

木 村 宏 一  選
　　　風抜けてこぼれて匂う稲の花／森戸しゆじ
　　　伏流水尽きることなし新豆腐／石崎そうびん
　ゆるやかに下るせせらぎ野路の秋／橋本幹夫
　　　　絶さじと若き語りべ原爆碑／池下よし子
　　　　　健康は老いの願ひや星祭／山口琴美
　　　流灯の離れつ寄りつ遠ざかる／清水恵山
　　　名も知らぬ秋草を手に散歩道／筒井省司
　　　　　　秋鯖の縞丸々と朝の浜／田村公平
　　　　一滴の雨も恋しき残暑かな／渡邉充孝
　　　　　　腕白も今は昔や生身魂／瀬尾睦夫

 

筒 井 省 司  選
　　　　　　腕白も今は昔や生身魂／瀬尾睦夫
　　　職退きて無精髭濃き秋立つ日／橋本幹夫
　　　風抜けてこぼれて匂う稲の花／森戸しゆじ
　　　黙祷のサイレン長き花カンナ／田村公平
　葉の露は揺られて揺れて元の位置／木村宏一
　　　　　韮の花段々畑を飾りをり／清水恵山
　　　絶やさじと若き語りべ原爆忌／池下よしこ
　　　　久しぶり聞く帰省子の国訛／後藤充孝
　　　　　雑草も季節移りて秋草に／山口美琴
　　　　　あの山が次の札所や鰯雲／石崎そうびん

 

田 村 公 平  選
　　　伏流水尽きることなし新豆腐／石崎そうびん
　　　　　奥美濃に一揆の歴史踊唄／同
　　　　昼酒に貌てらてらと夾竹桃／同
　　　　　あの山が次の札所や鰯雲／同
　迎火やおかへりなさいを声にして／池下よし子
　　　絶やさじと若き語りべ原爆忌／同
　　　若僧の声に張りある晩夏かな／瀬尾睦夫
　　　　　文月や庭に托鉢僧立ちて／清水恵山
　　虫の音に安らぎもらふ仕舞風呂／山口美琴
　　　青柿やいさかひ絶えぬ青二才／後藤允孝

 

石 川 順 一  選
　　　生くるとは使命と思ふ原爆忌／渡邊春生
　　　　　山霧や獣のごとく臆病で／同
　立秋のバッハ流るるティールーム／池下よし子
　　　　夕されば厠の窓にちちろ虫／同
　ネクタイをぐいと緩める残暑かな／石崎そうびん
　　　　虫しぐれ三色燈の回りづめ／同
　　　　　　神木の梢を鳴らす初嵐／清水恵山
　　　　風に問う平和の誓い終戦日／後藤允考
　　　　　竿灯に想定外の風が吹く／橋本幹夫
　　　　　荒畑に赤尖らせて唐辛子／筒井省司