講演
私と俳句
皆様、こんにちは、只今は、ご鄭重なるご紹介を頂きました西崎佐知でございます。この度は、大阪市高齢者俳句大会のご縁によりまして、こんな高い所よりお話をさせて頂く事となりまして、恐縮致してをります。
大変な事で御座いますが、何とぞよろしくお願い申し上げます。今年は取り分け長く厳しい残暑に、辟易しておりましたのに、爽やかな秋も酣となり、もう半月もしますと、暦の上では冬に入ります。
そうしますと私の好きな『小春』と言う季語を使う事が出来ます。蛇足ながら『小春』とは、１１月の初冬の頃は、風雨も少なく暖かい日和が続くので『小春』『小春日和』『小六月』と言って賞美します。
春に対し『小春』即ち小さい春と言うのは、初冬に、また、春が甦ったような温暖な日々をこんな、可憐な名がつけられました。こんな季語が私は好きです。
皆様にもお好きな季語の、二つや三つはお有りと存じます、タイトルにあります『私と俳句』のつながりも、案外こんな所にあるのではないかと、思ってをります。
皆様方には、お友達に勧められて、俳句を始められて未だ日の浅い方も、もう１０年以上に亘り培われて来た方も、どなたに取りましても、俳句は貴方の立派な歴史だと思います。
歴史と言うのは人の心の記録とも言えます。それは杜会の変遷のその時々に、生きて来た人々の感情が生きづいているからです。まさに、歴史はドラマであり、ドラマがある所に感動があります。
感動なくして俳句は出来ません。俳句は、英知と、洞察力の溢れる言葉によって、人を励まし勇気付け、人を鍛える無限の可能性を持っています。
俳句の言葉の一つ一つは、重要な意味を持ち、日本語の美しさや奥行の深さ、そして豊かな表現力の先兵だと思います。
さて、皆様、昨今の新聞、テレビに始まり、俳句雑誌は随分と書店などに溢れています。そのどれを拝見致しましても、参考にさせて頂く事ばかりで御座います。
そこで今更、私などが俳句について、皆様に満足して頂く、お話は出来ませんので、誠に勝手ではございますが、私が俳句を作ります上におきまし
てまた、選句をさせて頂く上におきましても、常に心に留めている事を、恩師舘野翔鶴先生の言葉も、お借りしてお話させて頂きたく存じます。
芸術の究極の目的は『真。善。美』の追求であると言われていますが、芸術に拘らず、人生そのものの、目的でもあるのではないかと思ってをります。
『真』は、真実の真、真実一路の真、写真の真です。『真』の反対は『嘘』です。嘘は悪い、そんな事はみんなの知る所ですが、俳句の世界では『虚』と言って許される、
『実に入りて虚に遊ぶべし』とさえ言われます。『虚』と『嘘』は違います。『虚』とは心に何のわだかまりもない事です。
生花の世界におきましても、虚実等分と教えられました。お花は野にある如く活けよと千利休師も申されましたが、摘んできた植物に色々と手を加え、その生物の出生の実を失わず、より美しく活けるのが、その植物に対
する、礼儀ではなかろうかと思ってをります。その最も顕著なのは、水仙の花では無かろうかと思います。黒潮の海に雪崩れて咲く沢山の水仙の花の群生は、その芳香と共に誠に見事です。
しかし生花にします時は、中々に大変ですが、手を加え、その出生の実を失わず、天、地、人の三才格に活けられました、水仙の花は誠に優雅です。
物の、まことを表現するのを『写生』と教えられました。『年々歳々、花同じうす』が『年々歳々花同じからず』と花鳥に代表される世界を見つめ、そしてまた異なる俳句が生まれるのです。
ついで、『善』について申します。『善』とは、人の生まれながらにして、持っているものであると言うのが、仏教の思想であります。
俳句ではあからさまに表現しなくとも、根本に『善』を追求する心があ、って、詠まれています。
芸術の一翼にある俳句には短い定形の奥底に『善』がなければなりません。それが、肯定の文学と言われる所以であると思います。
『人の性は善である』との仏教の教えを素直に受取り、道の辺の一木、一草に仏性があり、それを十七字に詠みあげるのが、俳句だと存じます。
大変な事で御座いますが、何とぞよろしくお願い申し上げます。今年は取り分け長く厳しい残暑に、辟易しておりましたのに、爽やかな秋も酣となり、もう半月もしますと、暦の上では冬に入ります。
そうしますと私の好きな『小春』と言う季語を使う事が出来ます。蛇足ながら『小春』とは、１１月の初冬の頃は、風雨も少なく暖かい日和が続くので『小春』『小春日和』『小六月』と言って賞美します。
春に対し『小春』即ち小さい春と言うのは、初冬に、また、春が甦ったような温暖な日々をこんな、可憐な名がつけられました。こんな季語が私は好きです。
皆様にもお好きな季語の、二つや三つはお有りと存じます、タイトルにあります『私と俳句』のつながりも、案外こんな所にあるのではないかと、思ってをります。
皆様方には、お友達に勧められて、俳句を始められて未だ日の浅い方も、もう１０年以上に亘り培われて来た方も、どなたに取りましても、俳句は貴方の立派な歴史だと思います。
歴史と言うのは人の心の記録とも言えます。それは杜会の変遷のその時々に、生きて来た人々の感情が生きづいているからです。まさに、歴史はドラマであり、ドラマがある所に感動があります。
感動なくして俳句は出来ません。俳句は、英知と、洞察力の溢れる言葉によって、人を励まし勇気付け、人を鍛える無限の可能性を持っています。
俳句の言葉の一つ一つは、重要な意味を持ち、日本語の美しさや奥行の深さ、そして豊かな表現力の先兵だと思います。
さて、皆様、昨今の新聞、テレビに始まり、俳句雑誌は随分と書店などに溢れています。そのどれを拝見致しましても、参考にさせて頂く事ばかりで御座います。
そこで今更、私などが俳句について、皆様に満足して頂く、お話は出来ませんので、誠に勝手ではございますが、私が俳句を作ります上におきまし
てまた、選句をさせて頂く上におきましても、常に心に留めている事を、恩師舘野翔鶴先生の言葉も、お借りしてお話させて頂きたく存じます。
芸術の究極の目的は『真。善。美』の追求であると言われていますが、芸術に拘らず、人生そのものの、目的でもあるのではないかと思ってをります。
『真』は、真実の真、真実一路の真、写真の真です。『真』の反対は『嘘』です。嘘は悪い、そんな事はみんなの知る所ですが、俳句の世界では『虚』と言って許される、
『実に入りて虚に遊ぶべし』とさえ言われます。『虚』と『嘘』は違います。『虚』とは心に何のわだかまりもない事です。
生花の世界におきましても、虚実等分と教えられました。お花は野にある如く活けよと千利休師も申されましたが、摘んできた植物に色々と手を加え、その生物の出生の実を失わず、より美しく活けるのが、その植物に対
する、礼儀ではなかろうかと思ってをります。その最も顕著なのは、水仙の花では無かろうかと思います。黒潮の海に雪崩れて咲く沢山の水仙の花の群生は、その芳香と共に誠に見事です。
しかし生花にします時は、中々に大変ですが、手を加え、その出生の実を失わず、天、地、人の三才格に活けられました、水仙の花は誠に優雅です。
物の、まことを表現するのを『写生』と教えられました。『年々歳々、花同じうす』が『年々歳々花同じからず』と花鳥に代表される世界を見つめ、そしてまた異なる俳句が生まれるのです。
ついで、『善』について申します。『善』とは、人の生まれながらにして、持っているものであると言うのが、仏教の思想であります。
俳句ではあからさまに表現しなくとも、根本に『善』を追求する心があ、って、詠まれています。
芸術の一翼にある俳句には短い定形の奥底に『善』がなければなりません。それが、肯定の文学と言われる所以であると思います。
『人の性は善である』との仏教の教えを素直に受取り、道の辺の一木、一草に仏性があり、それを十七字に詠みあげるのが、俳句だと存じます。
次に『美』について申します。『美』とは、美しい、奇麗、そして見る人に快感を与える事が出来ます。『美』の反対は『醜』みにくいであります。『醜』を好む人はいない、人と生まれて物心ついて以来、当然の事ではあります
が、私達の周囲に醜い事が多すぎはしないでしょうか。省みましてつくづく思わせられる昨今で御座います。
俳句は詩であり、詩は文学であり、文学は芸術であります。俳句を学びまして、私は私なりに『真』『善』『美』を追求して来た積もりであり、これからも更に心掛けてゆきたいと思ってをります。
嘘の無い『真』の世界、悪のない『善』の世の中、醜のない『美』の生活、それが理想の世と言うものでありましょうし、それを追求する為に、哲学に、宗教に、そして私は『俳句』に求め、その実現に向かって日々励みたい
と思ってをりますが、まだまだ、お恥ずかしい次第で御座います。これが、『私と俳句』です。
世界には小説、絵画、音楽、彫刻など種々の表現形式がありますが、いづれも豊富な知識や、経験、確かな技術がなければ認められないと思います。
しかし俳句に於ける表現は、初めて詠んだ子達が、大人顔負けの句を作る事があります。何方にも、新しい世界を創造する事が出来るのです。
季語や切字、省略、写生等、作句に当たっては、色々と要素がありますが、これらは全て俳句が、十七音の短い詩である事に起因しています。
始めのうちは、戸惑いもあるでしょうが、これも俳句にのみ与えられた武器です。少しづつ理解し、活用してゆくのも楽しいですよ。
詠う内容は決して、風雅な世界でなくても良いのです。俳句を始めて暫くすると旅に出て句材を求めたくなります。それを吟行と申します。
吟行は楽しく、それなりに、充分に意義がありますが、日常的なものにこそ、感動を見い出す姿勢が大切だと存じます。少し吟行のお話をさせて頂きます。俳句は足で作るものと教えられました。
人はよく『何処、そこへ行きましよう』と誘われると『そこは、前に行きましたから』と断るが、どんな名所でも、十年一ト昔と言われる位に変化している事を思えば、私は都合のつく限り同行させて頂きたいです。
古い事ですが、印象に残っている、山陰線、亀岡の水の尾への吟行の話をします。水の尾の里は山腹の村で、全３４戸、８人の生徒の小学校等がありました。
何をおいてもこの地を愛した、清和天皇の御陵にお参りをしました。ひたすら下る事２００メートルほど、谷川の石橋を渡り、登る事、約３００メートル
位、つまり水の尾の里を見下ろした山頂に、鎮まります御陵に額づきますと水の尾に来た実感が湧きます。
小屋は有りますが、守り部は居ない。掲示して日く『天竜寺の二帝陵に来て集印して欲しい』と書かれて有りました。それから、目的の柚子の採取を見学しました。
正月を控えた時とて、谷間の煙りを目当てに下りて行き、その作業を充分に見る事が出来ました。柚子の丘は２００年の古木もあって、正に柚子
今更の如くに『足で作る俳句』の意義を感じた楽しい一日でした。今も柚子の黄の輝く頃になりますと、再び行きたい吟行地であります。俳句は伝統的な約束ごととして、一句の情緒の中心に季語があるのでありますか
ら、季語の本意、本情を踏まえて作句し、また、鑑賞せねばなりません。例えば、萩の花を詠もうと意気込むのではなく、萩の花に詠ませてもらうと言う、謙虚な姿勢が大切であると存じます。
最後に、俳句を始められる中高年の方が多いと聞きますが、高齢はハンディにはなりません。むしろ加齢は、豊かな人生経験が、武器になるのが俳句の魅カです。
ご自分の俳句を美しい帳面に、書き留められ、そして後日、読み返されるのも楽しいと存じます。それが、生活の記録なのです。
誰もが俳聖、松尾芭蕉のようにはなれませんが、芭蕉の作らなかった俳句を貴方にも詠むことはできるのですよ。俳句作家であります皆様は、如何に年を重ねるも、その心には少年が住み、少女が生きているのです。
美しい物を見た時、季節の推移を感じた時など、偽らず、正直に五、七、五に言い止められますと作品に意外なる迫力が生れます。頑張って下さいませ。長時間のご静聴感謝いたします。有難うございました。
が、私達の周囲に醜い事が多すぎはしないでしょうか。省みましてつくづく思わせられる昨今で御座います。
俳句は詩であり、詩は文学であり、文学は芸術であります。俳句を学びまして、私は私なりに『真』『善』『美』を追求して来た積もりであり、これからも更に心掛けてゆきたいと思ってをります。
嘘の無い『真』の世界、悪のない『善』の世の中、醜のない『美』の生活、それが理想の世と言うものでありましょうし、それを追求する為に、哲学に、宗教に、そして私は『俳句』に求め、その実現に向かって日々励みたい
と思ってをりますが、まだまだ、お恥ずかしい次第で御座います。これが、『私と俳句』です。
世界には小説、絵画、音楽、彫刻など種々の表現形式がありますが、いづれも豊富な知識や、経験、確かな技術がなければ認められないと思います。
しかし俳句に於ける表現は、初めて詠んだ子達が、大人顔負けの句を作る事があります。何方にも、新しい世界を創造する事が出来るのです。
季語や切字、省略、写生等、作句に当たっては、色々と要素がありますが、これらは全て俳句が、十七音の短い詩である事に起因しています。
始めのうちは、戸惑いもあるでしょうが、これも俳句にのみ与えられた武器です。少しづつ理解し、活用してゆくのも楽しいですよ。
詠う内容は決して、風雅な世界でなくても良いのです。俳句を始めて暫くすると旅に出て句材を求めたくなります。それを吟行と申します。
吟行は楽しく、それなりに、充分に意義がありますが、日常的なものにこそ、感動を見い出す姿勢が大切だと存じます。少し吟行のお話をさせて頂きます。俳句は足で作るものと教えられました。
人はよく『何処、そこへ行きましよう』と誘われると『そこは、前に行きましたから』と断るが、どんな名所でも、十年一ト昔と言われる位に変化している事を思えば、私は都合のつく限り同行させて頂きたいです。
古い事ですが、印象に残っている、山陰線、亀岡の水の尾への吟行の話をします。水の尾の里は山腹の村で、全３４戸、８人の生徒の小学校等がありました。
何をおいてもこの地を愛した、清和天皇の御陵にお参りをしました。ひたすら下る事２００メートルほど、谷川の石橋を渡り、登る事、約３００メートル
位、つまり水の尾の里を見下ろした山頂に、鎮まります御陵に額づきますと水の尾に来た実感が湧きます。
小屋は有りますが、守り部は居ない。掲示して日く『天竜寺の二帝陵に来て集印して欲しい』と書かれて有りました。それから、目的の柚子の採取を見学しました。
正月を控えた時とて、谷間の煙りを目当てに下りて行き、その作業を充分に見る事が出来ました。柚子の丘は２００年の古木もあって、正に柚子
今更の如くに『足で作る俳句』の意義を感じた楽しい一日でした。今も柚子の黄の輝く頃になりますと、再び行きたい吟行地であります。俳句は伝統的な約束ごととして、一句の情緒の中心に季語があるのでありますか
ら、季語の本意、本情を踏まえて作句し、また、鑑賞せねばなりません。例えば、萩の花を詠もうと意気込むのではなく、萩の花に詠ませてもらうと言う、謙虚な姿勢が大切であると存じます。
最後に、俳句を始められる中高年の方が多いと聞きますが、高齢はハンディにはなりません。むしろ加齢は、豊かな人生経験が、武器になるのが俳句の魅カです。
ご自分の俳句を美しい帳面に、書き留められ、そして後日、読み返されるのも楽しいと存じます。それが、生活の記録なのです。
誰もが俳聖、松尾芭蕉のようにはなれませんが、芭蕉の作らなかった俳句を貴方にも詠むことはできるのですよ。俳句作家であります皆様は、如何に年を重ねるも、その心には少年が住み、少女が生きているのです。
美しい物を見た時、季節の推移を感じた時など、偽らず、正直に五、七、五に言い止められますと作品に意外なる迫力が生れます。頑張って下さいませ。長時間のご静聴感謝いたします。有難うございました。
引鶴主宰
西﨑佐知
平
成
一
九
年
一
〇
月
一
九
日
成
一
九
年
一
〇
月
一
九
日
大
阪
市
高
齢
者
俳
句
大
会
阪
市
高
齢
者
俳
句
大
会
