般若寺(コスモス寺)吟行記
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平成19年9月9日  辻 多津子
 引鶴恒例の9月吟行は、9日、奈良の石塔と四季の草花で知られている般若寺である。
 
 当日は近鉄奈良駅、行基菩薩像前10時集合と決められていて、時間前には佐知先生をお迎えして出席全員の顔が揃い、一日の吟行が始る。
 
 一行はタクシーに分乗して般若寺に向う。途中奈良阪にかかる辺りから道路に面する低い二階家に重厚さがあってよく見ると、軒を達らねた隣家との境にある「うだつ」である。
 
 これは類焼を防ぐ目的で施工されたもので漆喰を塗り固め瓦屋根を設けた立派な造りである。
 
 「『うだつ』が上らない」は出世できないの意味で残っている様に各戸競って上げた心情は想像に堅くない。ここは奈良と京都を結ぶ要路であり、要衝の地であった。
 
 奈良阪をのぼり詰めた辺りに、周囲を威圧する高さに聾え立つ楼門が道路すぐの所にある。般著寺の楼門で扉は開けられているが道路際に柵があり入る事はできない。
 
 柵の外、道賂際に立って見ると楼門を額縁として十三重塔を眞ン中に置いた伸びやかで、おおらかな寺苑が名画さながらである。
 
はたと止みまた一勢に法師蝉 浩
   
秋暑し坂のきびしき古都の街 多津子
  
優美なる古寺楼門の秋暑かな 寿美
 
この寺は寺伝によると、629年に高句麗の僧、慧灌がこの地に寺を建てたことに始まり、聖武天皇が堂宇を造営したと伝えている。

 境内には季節の花が咲き花の寺として有名である。初夏にはヤマブキが明るく咲き、6月には紫陽花が雨に歌い、秋にはコスモスが風に揺れる。
 
 一見荒涼とした感じを受けるお寺である。だからこそ一層の風情があると思います。
 
 今日の境内は、石仏がコスモスと野にある如く自然の景をなし、心の安らぎを感じさせます。花の盛りにはまだ早く、少しずつ彩り始めているところです。
 
 拝観の通用口から入り、受付で手続をすませて苑の順路に入る。今日もこの暑さ、日傘の列が続く。
 
 先ず平和の塔で、広島、長崎の原爆の火を移して灯されてより、消える事なく、延々と守り継がれてきた燭である。この後も守り継がれねばならないと思いつつ合掌。永久の平和を祈願致しました。
 
般若寺の苑競り上げし秋桜 ゆたか
   
秋桜寺苑あまさぬ石仏 窓城
   
般若寺の甍に今日の秋日照り 多津子
 
顔を上げると鐘楼があって、電動式と標示されている。これは珍しい。元の順路に戻る。と高々と百日紅が突っ立っている。本来ならば咲きついだ花もそろそろ終る頃と思われるが、この木は今を盛りと色鮮やかな美しさで極立っている。
 
 コスモスの径を更に進むと先程外から見た楼門に出る。
 平重衡の南部焼討にも難を逃れて、鎌倉時代の創建のまま今に守り継がれてきた国宝である。繊細で明快、均整のとれた古色の美である。
 
 それにしても寺院で楼門とはの疑問があって、広辞苑を繙くと、二階造りの門。特に初重に屋根のない一重屋根のもの。とありました。吹く風に秋の気配を感じつつ楼門の内側から十三重石塔を望む、絶景に感激。
 
 青空と雲がよく似合って素晴しい。この十三重塔は国の重要文化財。宋の石工伊行末が造立したもので鎌倉時代の石造美術を代表するものと云われる。
 
 花崗岩の高さ12.6米で初重軸部には線刻の四方仏、薬師、阿弥陀、釈迦、弥勒の如来像が配されている。
 
 
 1964年に解体修理が行われた際、奈良時代の銅造り如来立像、鎌倉時代の金銅舎利塔、水晶五輸塔、木造地蔵菩薩立像、木造大日如来像、1253年の墨書のある箱入り法華経等が発見された。
 
 これらの納遣品は一括して国の重要文化財に指定され、春と秋の特別寺宝展で公開されて居ります。
 
 眞直ぐ重塔ヘコスモスの径が続く。背は低いが薄草色の細い葉が固って高さを揃え、それなりに美しい。右から廻って経蔵を
 
 背に塔の正面に出る。読経・勤行の為の種々備品が設えられている。
 
重塔の影を流せる秋の雲 雄次郎
   
秋天を仰ぎ十三塔仰ぐ 多津子
   
秋桜三十三佛供華として 佐知
 
相変らず日差しは強く汗がにじむ。正に秋暑しである。本堂の階を上る。新涼の風にほっとして振返ると甍の上に東大寺の屋根が見え、かの鴟尾が輝やいている。しばらくは放心した様にこの奈艮の大景を眺めていた。
 
 薄暗く荘厳さを秘めた本堂に入り、国重文の御本尊木造文殊菩薩騎獅像を静かに仰ぐ。像高45.5糎の精緻な鎌倉彫刻である。
 
 又展示されている唐櫃は大塔宮護良親王が足利軍に追われた時、この唐櫃に隠れて難を逃れたと云う「大平記に記述のある」唐櫃であるとの事。
 
 本堂の階を下りて左側には笠塔婆(国重文)が二基建っている。高さ4.7米、花崗岩製、鎌倉時代中期の作で、板状の塔身に笠をのせ、伏鉢、請花、飾り宝珠がある。
 
 塔身には刷毛書の梵字で種字をあらわし、下方には長文の刻銘がある。
 1261年に、十三重塔を造立した宋の石工伊行末の子行吉が父の追善供養と母の無病息災を願って建立したと云われている。
 
秋日燦望みて盧遮那佛の鵬尾 窓城
   
露草や藥研彫てふ笠塔婆 美和子
   
さやけしや四方四仏の彫り浅く 佐知
 
 笠塔婆の道をそのまま進むと三叉路の辻に出る。
 驚いた事に道路神が祀ってあって片手拝みをして出ロヘ急いだ。
 
 寺苑全体を振り返ってみると、それ程広くない寺苑ではあるが大自然の中をゆったりと逍遙し、草木と親しみ、古刹の歴史に触れて満足の心がそこにあってこの寺の奥深さを感じさせられました。
 
鈴生りにかりんの実とは思はざり 浩
   
石像に秋暑の帽子目深にす 圭子
   
四代目相輸仰ぐ秋の空 徹
 
そろそろ時間である。慌しく奈良駅前行のバスに乗車、途中左手に天平時代の創建様式をそのまま伝える転害門を見る。扉は閉ざされたまま秋日を眞っ向うにして如何にも秋暑の門である。
 
 昼食後鹿を見ながら公園に沿って句会場の奈良県立文化会館へと急ぐ。
いつもの様に締切時問が近づくと緊張感が灌ってくる。佐知先生の選評等、御指導を項き盛会裡に終了致しました。
 
 コスモスの花の盛りには早く残念でしたが、重文の数多、自然の風景を愛で、寺苑の散策を心ゆくまで楽しむ事ができました。
 
 吟行に参加して、俳句をしていて良かったと思いました。次回の吟行も楽しみに致して居ります。 
 
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般若寺が紹介されているホームページ
https://hannyaji.com/