叡山坂本・旧竹林院吟行記
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平成19年11月11日  前川嘉風
 11月11日叡山坂本界隈の吟行にお誘いを受け久し振りに参加させて頂きました。
 
 叡山坂本は京の都に隣接し、北の若狭に通じる街道は朝鮮半島を経由して大陸文化を取入れる玄関口にあたります。
 
   ゆつくりと冬日が動く京訛 公枝
 
 また近海で水揚げされる海産物に加えて北前舟によってもたらされる各地の産物を京の都に流通させるルートの役目を果たしており、水運を利用した交通の要衝として栄えてきました。
 
   琵琶湖背に巡る初冬の門前町 澄子
 
 その重要な地域にある比叡山延暦寺では、熱心な修行僧もあったのだが、衣の下に鎧を着けた僧兵が徒党を組み都に出て示威行動を繰返し、手を焼いた織田信長は叡山を焼討したのである。
 
   つわものの駈けし街道冬に入る 佐知
 
 この様な歴史的背景のある土地柄だけに駅前には焼討の時乱打して、ひびの入った釣鐘があって往時を偲ばせ、累々と積まれた石垣は世界遺産であり国内でも例を見ない規模なのである。
 
   初時雨破鐘に見る歴史跡 恵以
 
 この穴太積の技術は朝鮮半島の石工(穴太衆)の渡来によって伝えられたもので、神杜・仏閣の多い街並みの景観を落ち着いたものとして、歴史の積上を感じさせる重厚さを醸し出している。
 
   穴太積塀高々と路地小春 窓城
 
 先ず最初に立寄った公人屋敷では横井金谷の描いた見事な襖絵があり、その周囲の壁面には、洋風のパッチワークが処狭しと展示されているのには、驚きと云うよりは唖然としたのである。

   キルト展壁に公人の冬座敷 舟津
 
 それは兎も角として裏に回ると離れ座敷跡の礎石があって、その周りには紫式部が細かい紫の実をつけ、石蕗の黄色の花が満開であった。
 
   比叡守りし公人屋敷の実紫 佐知

   石積の途切れし所石蕗の花 良一
 
 脇には千両が真っ赤な実を結んでいる等、格好の季語として活用されたことは当然のことである。
 
   穴太積狭庭彩る実千両 静代
 
 公人屋敷を後にして少し上った所に位置する生源寺は伝教大師御生誕の地であり、産湯の井戸もあって、毎年8月18日の夜行なわれる、ご誕生会には法要や御詠歌講、盆踊などが催され各地から多勢の人々が集ります。
 
   最澄の産湯つかひし寺小春 道子
 
 左側すぐのところは鐘楼があって破鐘の由来の書かれた立札が立っている。しかし鐘楼の入口には結界の鎖があり登壇を拒んでいる。
 
   鐘楼の空晴渡り冬紅葉 ゆたか
 
 由緒の破鐘は、この寺内に有ったものを駅周辺の公園に移設されている。一隅に聳える黄金色の大銀杏は四囲を圧し由緒ある寺院に相応しい風格を備え、訪れる人々の眼を引きます。
 
   破鐘の歴史たぐれば黄葉散る 窓城
 
 生源寺から更に上った所にある竹林寺の大庭園は背後にある山を借景にして自然の起伏を生かし岩清水を泉水に取り入れ、高みには自然の楓や橡などの紅葉が見事な色合を見せている。
 
   比叡晴れ竹林院の初時雨 佐知
 
 泉水のほとりには綺麗に手入れされた大きな赤松と、常緑樹があり手前の方には躑躅と庭石を配し、二棟の四阿も巧みに配置され安らぎの空問を作っている。
 
   箒目に落葉許して竹林院 多津子
 
 句会場となった数奇屋風の茶室は、庭に面した濡縁を障子で仕切り、床の間も二箇所作られ天井の樟縁も角竹を使うなど茶室としての寂び佳びの雰囲気を造る工夫がなされている。
 
   紅葉また黄葉よ院の茶室まで 浩
 
 当日は、天候が微妙に変化し、初時雨、小春、小六月等時間と場所に応じて用いられ、また落葉あり、半ば紅葉しているものから紅葉のはじまったものまで多種多様で句材には事欠かなかった。
 
   すぐ晴れて片時雨とも日照雨とも ゆたか
 
 この地に伝わる歴史の上辺しか知らない者にとっても、大自然と石組みの調和した街並みを散策していると僧兵の闊歩していた往時にタイムスリップした気分にさせられるのであった。
 
   歴史秘め日吉参道初時雨 静代

   屏風絵に公人の盛時偲ばるる とも江
 
 今回の吟行句会が皆様方のご協カとご理解により無事終了出来ました事を感謝致しますと共に、吟行に慣れない私にとつて良い勉強になり意義ある句会あった事を心から感謝レたします。
 
筆者 前川嘉風 詠

   山茶花の白さを散らす歩道かな

   里坊に石垣連ね石蕗の花

   清流の走る門前柿落葉
 
 
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叡山坂本界隈を紹介しているホームページ
https://hieizansakamoto.jp/