浪花酒造吟行記
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平成19年2月11日  門田窓城
 平安神宮の初詣につづく、2月の吟行は、11日大阪も南端の阪南市尾崎の西本願寺尾崎別院と、地酒で秘酒とも云はれる浪花正宗の浪花酒造である。
 
 南海本線難波発8時55分発急行乗車、大阪湾岸のコンビナートを右に見ながら、若い頃の海水浴の浜辺の景を懐かしみつつ、間をおいて飛び翔つ旅客機を見ながら新空港を過ぎる頃尾崎に着く。
 
 駅の西口を直角に5分程歩くと旧紀伊街道へ出る。右へすぐ寺門があり尾崎別院の境内である。
 
 慶長3年当時の領主果法院桑山伊賀守重晴(豊臣方)が、11間4面の堂宇を建立し、本願寺へ寄進したのが最初で、時まさに天下を決める関ヶ原の戦の2年前であり、本願寺が京都へ寺基を定めて4年後の事であった。
 
 元禄13年11月晦日の祝融(火災)に逢い、再建の方途なく、村人は天を仰いで呆然自失の態であった。その4年後、たまたま嵐の翌朝、尾崎の浜に巨木積載の船が漂着して居るのを発見し、これは天与のものと喜び拾って再建の材料とした。
 
 宝永2年9月上棟完成した。それは徳川綱吉の治政の時代である。以来、誰云うとなく不思議の御坊と呼ばれる様になったと寺縁起にある。
 
 近年激しい時代の変遷にもまれ、見る影もなくさびれていたが、門信徒を中心とする有縁の厚い懇念が実を結び、見事によみがえり、往年の威容を整えている。
 
 平成5年3月に完工した平成の大修理の成果である。本堂内陣は瞳をみはる、まさに西本願寺のきらびやかさである。山門を入った左側には立派な鐘楼が建ち、本堂右の寺務所、庫裏等も立派な建造物である。
 
 それほど広くない境内のほぼ中央に大銀杏があり、雷神の怒りに触れたらしく幹は裂け梢を落としているが命をつなぎ、早や芽立ちを見せ、洞には寄生木が緑の葉を揺らせている。不思議の御坊の面目躍如と云ったところである。
 
整はぬ春や内殿騎羅の坊 舟津
伝説の不思議の御坊春寒し 澄子
幹裂けて尚新芽伸ぶ大銀杏 圭子
 
 別院を辞居し町を歩く。昔の面影を残している巾に新しさが混在する不思議さを漂はせているかに見える。
 
 しばらく行くと大阪湾の防潮堤にぶつかる。一寸途切れた所があって浜に出る。茅渟の海の古名のある和泉灘で、この風が四天王寺に由緒の貝寄風で、ほっとして深呼吸。
 
 沖は関西空港で間をおいて航空機が発ち、機首を上げる。空港島の長さに比し随分と手前で飛び立っている。安全確保の為であろう。第2滑走路の長さは4粁と聞いた。完成している。
 
 足許は砂浜であるが、貝殻が浜を覆っている感じで貝寄風の名に恥じない。波も結構荒くて、春の海はのたりのたりではないのかとの質間があったが正しい答はできなかった。
 
 貝殻を拾って投げてみたがうまく海面を滑ってはくれない。防潮堤と同じ高さの漁家の軒下には、蛸壷が積み上げてあるところや、串に刺して魚を干している家もあって、嘗っては盛んな漁港であった事を思はせる。
 
突出して空港淳かぶ春の海 木賊
春日や眩しく光る空港島 不二子
春浅し軒にころがる蛸の壷 圭子
 
 次は地酒で秘酒とも云はれる知る人ぞ知る。浪花正宗の浪花酒造である。酒造業250年、現当主は十代目、成子和弘氏で大学卒との事。ただ美味しいだけでなく「心を満たす豊かな地酒」を提供するをモットーに、手作りの伝統を守り続けて日々努力を重ねているとのお話であった。
 
がうがうと米蒸す音の寒造 和弘
寒造プチプチプチと生きている 同
今になほ手作業極め寒造 同
 
 今回の吟行をお受け下さった上で、下手ですがと提供下さった句です。流石の迫力である。
 
 蔵に入ると六角に形取った井戸があって、さし渡し約2米、覗いて見ると深きに水面があって、天井を映している。
 
 酒造りでは水が生命と云はれる。蔵主は、この近くのお大師様の水が美味で知られている様に、この水は大変おいしく、酒蔵の歴史を今後も守り続けるであろうと力強く語ってくれた。
 
冴返る空に煙突寒造 律子
くぐり戸の奥より匂ふ寒造 寿美
門一歩酒の香りの寒造 佐知
 
 水に並んで大切なのは原料の米である。吟醸・大吟醸は兵庫県特産の山田錦を使っていると、流石と云はざるを得ない。そして精米である。米が壊れないように50時間かけて精米する。
 
 大吟醸は40%まで磨き上げ、洗米し浸漬する。その洗米、浸漬の良し悪しが大きく蒸し上りに影響する。大吟醸では笊ひとつひとつ丁寧に手で洗うと云う。
 
 次の工程は洗った米を大釜に乗せて蒸す作業で、今は二重蒸気槽の蒸米器を使う。以前は蒸米どうしがくっついて、団子状態になっていたが、この装置を使うと外剛内軟で1粒1粒がサラサラの状態となり、柔かく麹菌が米の表面だけでなく、米の中まで繁殖してゆけるので均一に米を糖化できる最良の装置であると説明されている。
 
 蒸米の二割は麹室に移し麹を作ります。麹菌の種を散布し、むらがなくなるように、人の手によってまんべんなくほぐされます。そして布を掛けて、麹菌を繁殖し易くします。
 
 麹室は35度、入ると暖かく麹の匂いが充満している。麹造りは赤ちゃんを育てるのと同じように大切に行なう。
 
 3時間おきに様子を見、室温を調節したり、かき混ぜたり、愛情が大切と云う。室温は発酵が進むと40度位となり、一晩たつと再度手作業でほぐしたり、やさしく布でくるみ寝かせたりするのだそうです。
 
 麹は適当な頃合(杜氏の見た目、味、匂ひ、触感による判断)で乾燥室へ入れる。乾燥室は15度位で、外気温の5度位へ除々に慣らさせる為で大事な工程との事。
 
 出来上った麹米は外気で乾燥させる。溝をつけて表面積を広くする。この麹造が最も酒の味に影響するところで、杜氏の径験と技の見せ場でもある。
 
 この麹は食べると栗の味がするとの事で試食させて戴きました。皆一様に美味しいである。
 
護符はりて明治の蔵に寒造 保
梁太き二階の奥の寒造 多津子
寒造糀の味は粟の味 久芙子
 
 次は仕込と醗酵である。仕込タンクに麹、酒母、仕込水、蒸米を入れ、かき混ぜ棒でかき混ぜる。15度位の温度に均一にする為毎日かき混ぜ、温度を管理する。
 
 20日乃至30日で酒になるとの事、始めの泡で出ているのは炭酸ガス、12・3日するとお酒の匂いに変ってくるのだそうです。毎日タンクから醪をすくいとり分析し、それに基ずいて仕込温度を調整すと云う。
 
寒造泡の機嫌の香りける 三津子
試しみる擢の重さや寒造 窓城
眩きをやまざる泡の寒造 佐知
 
 最後はしぼりです。普通はアコーディオン型しぼりを使ひ、大吟醸は「袋つり」と云う方法をとります。圧力をかけないで、自然に垂れてきた分のみを集める方法である。
 
 以上で原酒ができ、あとは濾過、熱成、壜詰されて出荷です。が、最後の最後「利酒」に触れておきます。毎日、できた酒を入念にチェックし、熟成の方法や、更に良質の酒造りの方法を検討する。その為の利酒である。
 
吟醸酒試飲に酔ひてうららけし 良子
飲めぬ酒試飲もしたる寒造 徹
寒造蔵は杜氏の独壇場 ゆたか
 
 今回の句会場は浪花酒造の御厚意による文化財指定の立派なお庭付きの立派なお座敷である。
 
利酒にほろ酔機嫌句座温くし 幸子
文化財ガラス歪に春日燦 恭生
春日影大正ロマン溢る部屋 佐知
 
 浪花酒造蔵主の成子様厚く御礼申し上げます。
 御世話下さった森本恭生様有難うございました。
 又多数の御参加、厚く御礼。御苦労様でした。
 
 
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