布引ハーブ園吟行記
平成21年7月12日 森本恭生
引鶴恒例の7月吟行は、計画段階では今迄と少し趣向を変えて、日本三大神滝の一つ、神戸市の布引の滝を吟行すべく5月中旬下見をしたのであります。
その時に滝の近くまで車で行けて良さそうなお寺があるとの情報で、先ずはお参りしてから寺務所に行くとお住職が出て来て呉れたので、句会の事をお話したのですが、残念ながら句会場としては無理との事。
それでも滝だけは見ておかねばと思い奥の方へ20米も行けば都会の中とは思えぬ木下闇、暫し佇んで山気に浸る。前方の木洩れ日の中に一際明るい所があるので近付くと木々の僅かな隙間から神戸の街が手に取るように見える。
平坦な道が暫く続き、道が三叉になった所に道標、其れに従い坂を下りかけると瀧音がする、五分も行くと滝茶屋らしき建物、横に廻ると大きなテラスがあり雄滝が目に飛び込んでくる。
此処で句会が出来れば最高であるが致し方が無い。そんな思いもあって最初から脱線してしまったが悪しからず。
話を本題に戻そう。さて吟行当日は、梅雨の最中と言う事もあり天気に気を揉んだが、泉州から神戸を望んだところ朝曇で靄っているがこの分だと雨はなさそうである。
大半の方は今年3月20日に開通した阪神電車難波線を利用する事になっている。新線の開通により奈良から神戸まで乗り換えなしで行ける様になるので便利である。
私達泉州組一行は南海難波駅から地下街を通りホームに行き、暫くするとほぼ全員が揃ったようである。宮子さんから三人は徒歩で、滝を見てから上で合流するとの事をお聞きしたので出発する事に。
発車して暫くの間は地下を走り地上に出たところは大阪ドーム球場の前である。南海沿線や奈良方面からは大阪ドーム、甲子園球場と野球観戦には随分便利になった。
電車は、尼崎、甲子園と過ぎ定刻通り三宮着此れより地下鉄で新神戸駅に、新神戸は新幹線の駅であり少しややこしいが、幸恵さんが詳しくて皆を先導してロープウェーの駅北野一丁目駅に定刻無事に到着した。
ゴンドラの発つ街中の駅涼し 佐知
一足先に到着していた窓城先生はじめJR利用者も全て揃ったようである。
その時、女性から森本さんと声を掛けられた、吃驚すると同時にまさか、と言う気持と嬉しさがこみ上げてきた。
と言うのも実は岡崎桜雲先生一門の神戸在住の方々に吟行案内を出していたのではあるが参加して頂けるとは、感動で・・・皆様には後ほど紹介させて頂こうと思い団体切符を買った。
白靴を真新に吟行初参加 春萌
このロープウェーは1991年ハーブ園の開園と同時に営業を始め神戸市が事業主体となって運営して来たが、最近民間会社に委託している様である。又市民からは神戸夢風船の愛称で親しまれている。
万緑に吸こ込まれ行くロープウェー 寿美
設備は最大高低差330m、最大径間長217m、支柱数12基、ゴンドラ定員は6名で69台もあると言う、スイスで設計された自動循環式ロープウェーで、一時間に一千人の輸送が出来るそうである。
万緑の山に降りたち異国の景 山中明石
駅を出るとすぐに眼下に神戸の街や海が見渡せる、中でも出発地点脇のホテルが群を抜いて高く異国めいた神戸の街に彩を添えています。
音のなき距離に見る滝景として 多津子
つい先ほどまで都会の喧騒の中にいたのが数分で、ゴンドラに身をおき、不思議な感覚になっているうちに布引の滝、雄滝(おんたき)が眼下の万緑の緑を割り真白く、まさしく布を垂らした様に雄大に落ち込んでいる。
ゴンドラに滝音までは届かざる 恭生
古から多くの文人達が詠んでいるのも頷ける、然しこうして真上から滝壺を覗けるのも長い歴史の中ではまだ始まったばかりである、これから先どの様に詠まれて行くのであろうか。
ハーブ園須磨万緑のど真ン中 窓城
間も無く中間駅、風の丘駅に到着し自動ドアが開き乗り降り自由な状態で開いたドアから冷気が吹き込まれた。この中間駅から頂上までがハーブ園として斜面を上手く利用して長く拡がっている。
花合歓に影を落としてロープウェー 佐知
ゴンドラの真下はは様子が変わり、所々に合歓の花が薄紅色の花を今が盛りと咲き誇っているのが、真上からの眺めで印象的である。
あちらこちらと見回しているうちに、十分間の空中散歩があっと言う間に過ぎてしまった。駅から外に出ると欧州の古城を思わすような建物が周囲の緑と調和して見事である。
古城めく夏の館の広き句座 久美子
緑背に異人館めく句会場 宮子
取敢えず皆さんを二階の句会場に案内して先程少し触れた特別参加して頂いた、神戸の山中明石さん、杉山春萌さん、それに大阪の森田公二さんを皆さんに紹介した。
荷物は置いたままで夫々自由に散策して頂く事にして、三三五五にハーブの香りの中に散らばっていった。
六甲の臍にありけりお花畠 公二
散策は上から下へと行くので楽ではあるが、日を遮るものは無く暑いが、皆さんはラベンダーに佇んだり、百合の花に鼻を寄せたり作句に懸命である。下り坂には合歓の花が散り敷いていたりして、句題の少ないのをカバーして呉れている。
汗の手にハーブを少したらしけり 恭生
今のハーブ園は一番花が少ない時季で心配していたが色々な植栽もありまずまずと言ったところであろうか、30分位経った所でガラスの大きな建物が現われた。その名もグラスハウスと言って中はミニ温帯植物園の様になっている、
花の名は片仮名ばかりお花畠 佐知
4棟の内の1棟はミントカフェーとなっていて色々なハーブ茶を楽しめ、ハーブを使ったケーキやサンドイッチもあるので眼下の神戸や大阪湾からの淡路島を眺めながらの食事をとる句友も多い。
夏霞む海を望みて昼餉かな 佐知
指呼のポートアイランドや神戸空港を飽きる事無く見ていたが、時間の経つのは早く、そこそこで席を立つ、階下には中世欧州で使われていたバスタブも展示されていた、美女が薔薇を一杯浮かべて入ったのであろうと想像した。
梅雨晴るる山の欧風レストラン 舟津
グラスハウスを出ると、滝見に別行動で行っていた3人も無事到着の連絡が入り安堵。遊歩道の日溜りにハーブの草いきれの様な所があり身に纏いつく感じがした。
やがてハーブ園の最下部に着いた所にドリンクショップと書いた小屋があり木蔭にテーブルを置いている、殆んどの人がソフトクリームを求めている。暑かったのでそれを癒すには最適である。
アイスクリームかぶり幸せさうな顔 恭生
一息ついた所で中間駅の風の丘駅から句会場へと急いだ。定刻どおり締切り互選の後披講、今回は伝三さん、圭子さんと続き舟津さんに締めて頂いた後、佐知先生から何時ものように懇切な指導を戴き閉会となった。
今回の吟行では暑い中ハーブ園と言う句題の少ない特殊な場所にも拘らず協力して頂いた皆さんにお礼申し上げます。
それと特筆しておきたいのは明石さん、春萌さんのお二方は句会も吟行も初めての事とお聞きしたのですが、そのような状況の中で勇気を振り絞り参加して頂いた事に感動致しました。
と同時申し訳ない気持と、自分に振りかえった時、反省頻りであります。有り難うございました。今後とも宜しくお願い致します。
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